第2次世界大戦当時、ナチス・ドイツにおいて、600万人に及ぶと言われる人の命が強制収容所で絶たれました。
そのうち、アウシュビッツ収容所では300万人の命が奪われたと伝えられますが、心理学者のフランクル教授は、そのアウシュビッツ収容所から奇跡的に生還され、『夜と霧』という本を著述されました。
その著述の内容は非常に重く、深く心の底に差し迫ってくるものがあり、それを自分としてどのように受け止めることが出来るのか、それを書き残さなければいけないという強い気持ちに襲われます。
本の中には感銘的な箇所が幾つもありますが、どうしてもこれだけは、という思いのする箇所があります。
それは、「著しく困難な外的状況こそ人間に内面的に自らを超えて成長する機会を与えるものだ」という所、そして「人間の生命は常に如何なる事情の下でも意味をもつこと、そしてこの存在の無限の意味はまた苦悩と死をも含むものである」という所であります。
「今」の中に生きる意味を見出すことが出来れば、どのような状況下にあっても自分を成長させることが出来る、そしてまた、たとえそれがいかに深い苦悩や死であっても、それを経験すること自体が自分にとってかけがえのない意味を持つものである、ということでしょうか。
また、博士が引用されている「汝の体験せしことをこの世の如何なる力も奪い得ず」という、ある詩人の言葉…。
いつ果てるとも知らない自分の命だが、精いっぱい生きた証は誰にも奪われることはないということ…。
「破れ靴の中で泥だらけになっている傷ついた足の痛みに殆んど泣きながら、私はひどい寒さと氷のような向い風の中を長い縦列をなして収容所から数キロ離れた労働塲までよろめいて行った。」………
過酷で残酷な一瞬ごとの積み重ねの中における絶え間ない死の恐怖と絶望、それらとの闘いの中で絞り出された数々の言葉は、私に対して非常な鋭さと重さとをもって迫ってくるのです。