平成六年一月三十日、この日は私の「出家得度式」、つまり僧侶にしていただいた有り難い日でありました。
所は、兵庫県養父市八鹿町にある曹洞宗・永源寺です。
私はこのお寺に前年の十一月一日からお世話になり、僧侶として出発するために必要なことを一から十まで教わりました。
「教わる」と言いましても、箸の上げ下ろしから挨拶の仕方、言葉遣い、掃除の仕方、食事の準備、風呂焚き(この頃は薪で風呂を沸かしていました)といった日常生活全般にわたりまして、それまでほとんどしてこなかった事柄ばかりですから、如何せん「叱られる」ということが多くなります。毎日毎日、朝から晩まで叱られ続けるといった日常で、ただただ、石にしがみつくようにして日を送りまして、いよいよ得度式の前日となりました。
精神的には正直なところかなり追い詰められていて、明日、晴れて出家させていただくという意欲よりも、何とか式をきちんと勤めさせていただけるだろうかということにのみ気持ちが向けられていたように思います。
そんな中で私は、お釈迦様がお生まれになったときに甘い雨が降ってきたという故事を思い出し、不遜にも、これだけ苦しんで迎える得度式だから、きっと何かが起こるに違いないと思ったのです。今にして思えば本当に身の程知らずというか恥ずかしい限りですが、我ながら何か起こることを期待していたのだと思います。
そしてそのとき私は、「青い雪が降る」と直感したのでした。
…さて翌朝、八鹿の町に、果たして雪が降り積もりました。
私が準備のために人より早くお寺の前庭に出てみると、十五センチほどの雪が積もっています。しかし、それは普通の白い雪でした。
やはり「青い雪」などという馬鹿なことはないと思いながら、何気なく積もった雪の表面をすくってみると、何とそこにきれいな青い雪が現われました。
きっと水分をたくさん含んだ雪が降ったために、積もった雪が青く見えたのでしょう。それ以来、永源寺でも、また雪の多い妙性寺でも、同じような「青い雪」に出会ったことはありませんので、それなりに特別の雪だったのだとは思います。
ただこれは、私しか見ていない「青い雪」だったのかもしれませんが…。