今年の正月、嵐のように忙しかった大晦日から元旦の行持を終えて、ぼんやりとテレビを見ていたときのこと…。
米国「TIME」誌で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたということで、近藤麻理恵さんが紹介されていました。私は、初めて耳にするお名前だったという、自分の世事に疎いことに対する恥ずかしさと、「片づけの魔法」という印象的な言葉に魅かれて思わずメモを取り、数日後、早速その代表的なご本を一冊買い求めました。引きずり込まれるように読み終わった後、もう一度序文にかえり、「まずは、「捨てる」を終わらせてください」との言葉をとにかく実行することにしました。
最初の一ト月、二タ月ほどで自分のものはほぼ捨て切ってしまいましたが、何せお寺です。本堂、位牌堂、庫裡、土蔵、観音堂、離れ…お寺の創立から二百年以上経っているわけですから、不要なものも百年、二百年眠っていたものがあります。
そして、赤や黄色、透明のごみ袋とも仲良しになり、焼却場の職員さんとも顔馴染みになってそろそろ半年が経つわけですが、最後の最後、本堂床下の掃除がいよいよ終盤に差しかかり、ちょっと不思議な体験をしています。
これは単なる私の思い込みであり、錯覚なんですが、本堂が浮きあがったように見えるのです。
当初は、暗い床下には多量の古材に混じって動物の死骸や、はたまたお寺ですから人の骨まで眠っているのではないかと本気で心配しましたが、すっかり引っ張り出して風通しがよくなってみると、今まで何があるか分からなかった暗いイメージの床下がスッキリとした空間となって、本堂を浮かび上がらせているように思えるのです。
「片づけの魔法」なんでしょうか、近藤さんの素晴らしいご本と出会えたお蔭で、本当に貴重な体験をさせていただきました。